いわ》んとして泣声に胸《むね》塞《ふさ》がり暫し言葉も続かざりしが漸くに心を鎮め「はい所天は一昨夜外へ出まして目「外へ出て何所へ行きました倉「モントローグまで参りました、兼《かね》て同所に此店の職人が住で居まして、先日得意先から注文された飾物を其職人に誂《あつら》えて置きました所《とこ》ろ、一昨日が其出来|揚《あが》りの期限ですのに、夜《よ》に入るまで届けて来ませんから、若《も》し此上遅れては注文先から断られるかも知れぬと云い夫《それ》を所天《おっと》は心配しまして九時頃から其職人の所へ催促に出掛ました尤《もっと》も私しもリセリウ街《がい》の角まで送て行ッたから確かです其所《そこ》から所天がモントローグ行きの馬車に乗る所まで私しは見て帰りました」余は傍より此返事を聞き、是ぞ正しく藻西が無罪の証拠なると安心の息を発《ほっ》と吐《つ》きたり、目科も少し調子を柔げ「爾《そう》すると其職人に問えば分りますね、十一時頃までは多分其職人と一緒に居たでしょうから」実に然り、彼《か》の老人が殺されし家の店番の証言にては藻西太郎が九時頃に老人の室《へや》に来り十二時頃まで老人と話して帰りたりとの事なれば
前へ
次へ
全109ページ中81ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
黒岩 涙香 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング