が上ろうかと思う為です、私しの来たのも矢張《やはり》唯《た》だ夫《それ》だけの目的で、色々貴女に問うのです、貴女の答え一つに依り嫌疑が益々重くもなり、又全く無罪にも成りますから腹臓《ふくぞう》なく返事するのが肝腎です、さ何《ど》うか腹臓なく」と云《いわ》れて倉子は凡そ一分間が程も其青き眼《まなこ》を挙《あ》げ目科の顔を見詰るのみなりしが、漸《ようや》くにして「さアお問なさい」と云う、あゝ目科は如何なる問を設けて倉子を罟《わな》に落さんとするや、定めし昨夜藻西太郎を問し如く敵の備え無き所を見て巧みに不意の点のみを襲うならんと、余は窃《ひそ》かに堅唾《かたず》を呑みしに彼れは全く打て変り、正面より問進む目「えー、藻西太郎の伯父|梅五郎《ばいごろう》老人の殺されたのは一昨夜の九時から十二時までの間ですが其間丁度藻西太郎は何所《どこ》に居ました何をして」倉子は煩悶に堪えぬ如く両の手を握り〆《し》め「是が本統に、運の尽《つき》と、云う者です」と言掛けて涙に咽《むせ》ぶ目「運の尽とは何《ど》う云う者です、所天《おっと》が何所に何をして居たか、貴女が知らぬ筈《はず》は有りますまい倉「はい」と漸く言《
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