見、余等二人に噛附んとするなる可《べ》し、倉子は一声に「これ、プラト、怒るのじゃ無いよ、此お二人は恐しい方じゃ無いから」と、叱り附る、叱る心を暁《さとり》てか犬は再び寝台の下に隠れたれども、猶《な》お少しでも女主人の危きを見れば余等二人に飛附ん心と見え暗がりにて見張れる眼《まなこ》、宛《あたか》も二個《ふたつ》の星の如くに光れり、目科は倉子の言葉を機会《しお》に「ほんに吾々は恐しい人じゃ有《あり》ません、斯《こう》して来たのも捕縛など云う恐る可《べ》き目的では無いのです」是だけ聞きて倉子は少し安心の色を現すかと思いしに少しも爾《さ》ること無く、目科の言葉を聞ざりし如くに、我手に持《もて》る呼出状を一寸《ちょっ》と眺めて「今朝裁判所から此通り私しを午後の三時に出頭しろと云て来ましたが、裁判官は虫も殺さぬ私しの所天へ人殺の罪を被《き》せ、夫《それ》で未《ま》だ飽足《あきたら》ず、私しをまで何《ど》うか仕ようと云うのでしょう」目科は今までに余が見し事なきほど厳そかなる調子にて「裁判所は決して貴女の敵では有ません唯|問糺《といたゞ》す丈《だけ》の事です、貴女に問えば若しも藻西太郎の罪の無い証拠
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