の後々に至大《しだい》なる影響を及ぼす可《べ》しとは思い寄ろう筈《はず》も無し、目科は宛《あたか》も足を渡世《とせい》の資本《もとで》にせる人なる乎《か》と怪しまるゝほど達者に走り余は辛《かろ》うじて其後に続くのみにて喘《あえ》ぎ/\ロデオン街《まち》に達せし頃、一|輛《りょう》の馬車を認め目科は之《こ》れを呼留《よびとゞ》めて先《ま》ず余に乗らしめ馭者《ぎょしゃ》には「出来るだけ早く遣《や》れ、バチグノールのレクルース街《まち》三十九番館だ」と告げ其身も続て飛乗りつ只管《ひたすら》馬《うま》を急《せか》し立《たて》たり、「はゝア、行く先はバチグノールだと見えますな」とて余は最も謙遜の詞《ことば》を用い目科の返事を釣出《つりだ》さんと試むれど彼れ今までとは別人の如く其唇固く閉じ其眉半ば顰《ひそ》みたるまゝにて言葉を発せず其様深く心に思う所ありて余が言葉の通ぜぬに似たり、彼れ何を斯《か》く考うるや、眼《まなこ》徒《いたず》らに空《くう》を眺めて動かざるは六《むつ》かしき問題ありて※[#「研のつくり」、第3水準1−84−17]《そ》を解かん為《た》め苦めるにや、頓《やが》て彼れ衣嚢《かくし
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