るに非《あら》ず、人附《ひとづき》も甚《はなは》だ好ければ猥《いやら》しき振舞は絶《たえ》て無く、近辺の戯《たわむ》れ男の中《うち》には随分お倉に思いを掛け彼れ是《こ》れ言寄らんとする者あれどお倉は爾《さ》る人と噂を立られたる事も無ければ少したりとも所天《おっと》に嫉妬を起させる如き身持を為《な》したる事なし、妻として充分安心の出来る女なり、など云うだけなり。
 是だけ集め得て目科は最《いと》も満足の体《てい》にて「何《ど》うだ君、斯《こう》して集めたのが本統の事実だぜ若《も》し探偵と分る様な風をして来て見たまえ、少し藻西を悪《にく》む者は実際より倍も二倍も悪く言い又|悪《にく》みも好みもせぬ者は成《な》る可《べ》く何事も云うまいとするから本統の事は到底聞き出す事が出来ぬ、さあ之《これ》から愈々《いよ/\》藻西の家に行き細君に直々《じき/\》逢うのだ」と云う、藻西の店は余等《よら》が立てる所より僅か離れしのみにして店先の硝子《がらす》に書きたる「模造品店、藻西太郎」の金文字も古びて稍《や》や黒くなれり目科は余を従え先《ま》ず其店の横手に在る露路の所に立ち暫し店の様子を伺う体なる故、余は
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