平気にて「問わずとも知れて居よう、藻西太郎の妻倉子を調《しらべ》るのさ」扨《さて》は目科も細君の議論に打負け、昨夜分るゝまで藻西を無罪と認めしに今朝は早《は》や藻西が其妻に煽起《そゝの》かされて伯父を殺せし者と認め藻西の妻を調べんと思えるなるか、斯《か》く思いて余は少し失望せしに目科は敏《さと》くも余の心を察せし如く「僕が吾が妻の意見を聞くのを君は可笑《おかし》いと思うだろうが、有名なる探偵の中《うち》には下女の意見まで問うた人が有る、今までの経験に由《よ》り僕は何《ど》の様な事件でも一度《ひとたび》は女房の意見を聞いて見る、女房は女の事で随分詰らぬ事も言い殊に其意見が何うかすると昨夜の様に小説じみて来るけれど、僕は又単に事実の方へのみ傾き過る事が有ッて僕の考えと妻の考えを折衷《せっちゅう》すると丁度好い者が出来て来る」と云う是《これ》にて見れば満更細君の意見にのみ心酔したる様にも有らねば余は稍《や》や安心し、今日中に如何ほどの事を見出すならんと夫《それ》のみを楽みて再び又口を開かず、歩み/\て遂に彼の藻西太郎が模造品の店を開けるビビエン街《まち》に到着せり、此町の多く紳士貴婦人の粧飾
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