ぬ」目科は成るほどゝ思いしか一語を発せず猶《な》お細君の説を聞く、細君は語を継ぎて「直に行けば猶《ま》だ藻西太郎が捕縛されて間も無い事では有るし、妻の心も落着いて居ぬ間ですから其所《そこ》を附込《つけこ》み問落せば何《ど》の様な事を口走たかも知れません、包み兼《かね》て白状するか、夫《それ》ほどまでに行かずとも貴方の眼《まなこ》で顔色ぐらい読む事が最《いと》易《やす》かッただろうと思いますよ」此口振は云う迄も無く藻西を真の罪人と思い詰ての事なれば余は椅子より飛上り「おや/\奥さん、夫《それ》では藻西太郎を本統の犯罪人と思召《おぼしめ》すのですか、ヱ貴女」細君は不意の横槍《よこやり》に少し驚きし如くなりしも、直に落着て何所《どこ》やら謙遜の様子を帯びつゝ「はい若《も》しや爾《そう》では有るまいかと私しは思います」余は是に対し熱心に藻西太郎が無罪なる旨を弁ぜんとするに細君は余に其暇を与えず、直ちに又言葉を継ぎて「孰《いず》れにしても此犯罪が其妻倉子とやら云う女の心から湧て出たには違い有ません私しは必ず爾《そう》だと思いますよ、若し犯罪が二十有るとすれば其中《そのうち》の左様さ十五までは大抵
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