は有りがちなれば細君は騒ぎもせず庖《くりや》の方《かた》に退きて五分間と経《へ》ぬうち早や冷肉の膳を持出で二人の前に供したれば、二人は無言《むげん》の儘忙わしく喫《た》べ初めしも、喫て先ず脾《ひ》だるさの鉾先だけ収まるや徐々《そろ/\》と話に掛り、目科は今宵の一条を洩さず細君に語り聞かす流石探偵の妻だけに細君も素人臭き聞手と違い時々不審など質問する孰《いず》れも能《よ》く炙所《きゅうしょ》に当れば余は殆ど感心し「此の聞具合では必ず多少の意見も有るだろう」と窃《ひそか》に思待《おもいま》つうちに、漸《ようや》く目科の話が終れば果せるかな細君は第一に「貴方は失念《ぬかっ》た事を仕ましたね」と云う、目科は宛《あたか》も今までの経験にて細君の意見の侮《あなど》り難きを知れる如く、此言葉に多少の重みを置き「失念《ぬかっ》た事とは何が細「現場を立去ッてから直《すぐ》に牢屋へ行くと云う事は有りませんよ目「だッて牢屋には肝腎《かんじん》の藻西太郎が居るだろうじゃ無いか細「でも貴方、藻西に逢た所で別に利益は無《なか》ッたでしょう、夫《それ》よりは何故直に藻西太郎の宅へ行き其《その》妻《さい》を尋問しませ
前へ
次へ
全109ページ中60ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
黒岩 涙香 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング