ぞ》きたり、是より夜の明るまで余は眠るにも眠られず、様々の想像を浮べ来りて是か彼《あ》れかと考え廻すに目科は追剥《おいはぎ》か盗坊《どろぼう》か但《たゞ》しは又強盗か、何しろ極々《ごく/\》の悪人には相違なし。
爾《さ》れど彼れ翌日は静かに余が室に入来《いりきた》り再び礼を繰返したる末、意外にも余に晩餐の饗応せんと言出《いいいで》たり、晩餐の饗応などとは彼れが柄に無き事と思い余は少し不気味ながらも唯《たゞ》彼れが本性を見現《みあらわ》さんと思う一心にて其招きに応じ、気永く構えて耳と目の及ぶだけ気を附けたれど露《つゆ》ほども余の疑いを晴す如き事柄は聞出しもせねば見出しもせずに晩餐を終りたり。
爾《そう》は云え是よりして余と目科の間柄は一入《ひとしお》近くなり、目科も何やら余に交《まじわ》りを求めんとする如く幾度と無く余を招きて細君と共々に間食《かんじき》を為《な》し殊《こと》に又夜に入《い》りては欠《かゝ》さず余を「レローイ」珈琲館まで追来《おいきた》り共に勝負事を試みたり、斯《か》くて七月の一夕《あるゆうべ》、五時より六時の間なりしが例の如く珈琲館にて戯《たわむ》れ居《い》たるに、
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