判事や探偵を手球《てだま》に取るから余「だッて君目「いや/\僕は今まで色々な奴に出会《でっくわ》したゞけ容易には少しの事を信ぜぬて、併《しか》し今日の詮索は先ず是だけで沢山だ、是から帰て僕の室へ来、何か一口|喫《た》べ給え、此後の詮索は明日又朝から掛るとしよう」


          第七回(馬鹿か、否《いな》)

 是より目科が猶も余を背後《うしろ》に従え我宿に帰着き我室の戸を叩きしは夜も早や十時過なりき、戸を開きて出迎える細君は待兼し風情にて所天《おっと》の首にすがり附き情深きキスを移して「あゝ到頭《とうとう》お帰になりましたね今夜は何だか気に掛りまして」と言掛けて余が目科の背後《うしろ》に在るを見、忽《たちま》ち一歩引下り「おゝ御一緒に、今まで珈琲館に居《いら》しッたのですか、私しは又用事で外へお廻りに成たかと思いました、遊《あそん》でお帰り成《なさ》るには余り遅過るじゃ有ませんか」帰りの遅きは用事の為とのみ思いたるに余と一緒なるを見て扨《さて》は遊びの為なりしかと疑い初めたる者と知らる、目科は隙《すき》も有らせず「なに珈琲館を出たのは六時頃だッたがバチグノールに人殺《ひとごろ
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