うや》くに我心を推鎮《おししず》め「え、え」と悔しげなる声を発して其儘寝台に尻餠《しりもち》搗《つ》き「えゝ、是でさえ最《も》う充分の苦みだのに此上、此上、何事も問うて下さるな、最う何《ど》う有ても返事しません」断乎《だんこ》として言放ち再び口を開かん様子も見えず、目科も此上問うの益なきを見て取りしか達《たっ》て推問《おしと》わんともせず、是にて藻西太郎を残し余と共に牢を出で、階《はしご》を下りて再び鉄の門を抜け、廊下を潜り庭を過《よぎ》り、余も彼れも、無言の儘にて戸表《おもて》へと立出しが余は茲《こゝ》に至りて我慢も仕切れず、目科の腕に手を掛けて問う「是で君は何と思う、え君、彼れ自分で殺したと白状して居るけれど伯父が何の刃物で殺されたか夫さえも知ぬじゃ無いか、君が短銃《ぴすとる》の問は実に甘《うま》かッたよ、彼は易々《やす/\》と其計略に落ちた、今度こそ彼れの無罪が明々白々と云う者だ、若し彼れが自分で殺したなら、なに短銃《ぴすとる》で無い短剣だッたと云う筈だのに」目科は簡単に「左様さ」と答えしが更に又「併《しか》し何方《どちら》とも云れぬよ罪人には随分思いの外に狂言の上手な奴が有て、
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