る番「私しは役目通り今まで彼れを窺《のぞ》いて居ましたが、彼れ疾《と》くに後悔を初めたと見え泣て居ますよ、宛《まる》で身体の大きい赤坊です、声を放ッて泣て居ます目「何《ど》れ行て見よう、だが己《おれ》の逢て居る間、外で物音をさせては了《いけ》ないよ」と注意を与え目科は先ず抜足して牢の所に寄り窃《ひそ》かに内を窺い見る、余も其例に従うに成る程囚人藻西太郎は寝台《ねだい》の上に身を投げて俯伏《うつぶ》せしまゝ牢番の言し如く泣沈める体《てい》にして折々に肩の動くは泣じゃくりの為なるべく又時としては我身の上の恐ろしさに堪えぬ如く総身《そうしん》を震わせる事あり、見るだけにても気の毒なり、良《やゝ》ありて目科は牢の戸を開かせつ余を引連れて内に入る、藻西太郎は泣止みて起直り、寝台の上に身を置きしまゝ目科の顔を仰ぎ見るさま、痛く恐を帯びたるか爾《さ》なくば気抜せし者なり、余は目科の背後《うしろ》より彼れの人と為《な》りを倩々《つく/″\》見るに歳は三十五より八の間なる可《べ》く背は並よりも寧《むし》ろ高く肩広くして首短し、執《いず》れにしても美男子と云わるゝ男には非ず、美男子を遙か離れ、強き疱痘《ほ
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