者目科を見るよりも腰掛を離れて立ち「やア旦那ですか、多分|入《いら》ッしゃるだろうと思ッて居ました何でもバチグノールの老人を殺した藻西とか云う罪人にお逢い成《なさ》るのでしょうね目「爾《そう》だ、何か其藻西に変ッた事でも有るのか牢番「なに変《かわっ》た事は有りませんが唯《た》ッた今警察長がお見《みえ》に成り彼れに逢て帰たばかりですから目「夫《それ》だけで能《よ》く己の来たのが藻西に逢う為めだと分ッたな牢番「いえ夫だけでは有ません、警察長は僅か二三分囚人と話て帰り掛けにアノ野郎言張て見る気力さえ無い、斯《こ》う早く罪に服そうとは思わなんだが是で最《も》う充分だ今に目科が遣て来て彼奴《きゃつ》の言立を聞き失望するだろうと何か此様な事を呟いて居ましたから」目科は之を聞き扨《さて》は罪人|早《は》や既に爾《そう》まで罪に服したるやと驚きしものゝ如く、嚊煙草を取出す事すら打忘れて牢の入口を鋭く見遣《みや》れり、牢番は目科の様子に気を留ずして言葉を続け「成るほどあれでは服罪しましょう、私《わた》しは一目見た時から此野郎|迚《とて》も言開《いいひらき》は出来まいと思いました目「して藻西は今何をして居
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