えぶる》を囲みて雑話せるを見る、余は小声にて目科を控え「今時分藻西太郎に逢う事が出来ようか」と問う、目科は「出来るとも僕が此事件の詮鑿を頼まれて居るでは無いか仮令《たと》い夜の夜半《よなか》でも必要と認れば其罪人に逢い問糺《といたゞ》す事を許されて居る」と云い余を入口に待せ置き内に入りて二言三言、何事をか残員《のこりいん》と問答せし末、出来《いできた》りて再び余を従えつ又奥深く進み行き、裏庭とも思わるゝ所に出で、※[#「研のつくり」、第3水準1−84−17]《そ》を横切りて長き石廊に登り行詰る所に至れば厳《いか》めしき鉄門あり、番人に差図《さしず》して之を開かせ其内に踏み入るに是が牢屋の入口なる可く左右に広き室ありて室には幾人の巡査集れるを見る、室と室との間に最《いと》険《けわ》しき階段あり之を登れば廊下にして廊下の両側に列《つら》なれる密室は悉《こと/″\》く是れ囚舎《ひとや》なるべく其戸に一々逞ましき錠を卸せり、廊下の入口に立てる一人、是が世に云う牢番ならんか、兼《かね》て小説などにて読みたる剛《こわ》らしき人とは違い存外に気も軽げなれど役目が役目だけ真面《まじめ》には構えたり、此
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