くみしまゝ一つは我が胸に浮ぶ様々の想像を吟味《ぎんみ》するに急《いそが》わしく一は又目科の様子に気を附けるが忙わしさに一語だも発するひま無し、目科は又暫し考えし末、忽《たちま》ち衣嚢《かくし》を探りて先刻のコロップを取出し宛《あたか》も初めて胡桃《くるみ》を得たる小猿が其の剥方《むきかた》を知ずして空《むなし》く指先にて拈《ひね》り廻す如くに其栓を拈り廻して「何にしても此青い封蝋が大変な手掛りだ何うかして看破《みやぶ》らねば」との声を洩せり、斯《かく》て長き間走りし末、馬車は終《つい》に警察本署に達し其門前にて余等《よら》二人を卸《おろ》したり、日頃ならば警察の庭と聞くのみも先ず身震する方にして仲々足踏入る心は出《いで》ねど今は勇み進みて目科の後に従い入るのみかは常に爪弾《つまはじき》せし探偵|吏《り》の、良民社会に対して容易ならぬ恩人なるを知り我が前に行く目科の身が急に重々しさを増し来《きた》り、其|背長《せたけ》さえ七八寸も延しかと疑わる、即《やが》て其広き庭より廊下へ進み入り曲り曲りて但有《とあ》る小室《しょうしつ》の前に出《いず》れば中《うち》には二三の残り員《いん》、卓子《て
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