は夫こそ余り馬鹿さが過るじゃ無いか」目科は怒りもせず「左様《さよう》、馬鹿さが過るかも知れぬ、事に由ると僕が全くの馬鹿かも知れぬ、けれども今に判然と合点の行く時が来るだろうよ」警察長は聞流して帰り去り、目科も亦《また》言流して余に向い出し抜《ぬけ》に「さア是から二人で警察本署へ行き、捕われて居る藻西太郎に逢て見よう」
第六回(犬と短銃《ぴすとる》)
藻西太郎に逢《あっ》て見んとは素《もと》より余の願う所ろ何かは以て躊躇《ためら》う可《べ》き、早速目科に従いて又もや此家を走り出《いで》たり、余と云い目科と云い共に晩餐|前《ぜん》なれど唯《たゞ》此事件に心を奪われ全く饑《うえ》を打忘れて自ら饑たりとも思わず、只管《ひたすら》走りて大通りに出で茲《こゝ》にて又馬車に飛乗りゼルサレム街に在《あ》る警察本署を推《さ》して急《いそが》せたり目科は馬車の中にても心|一方《ひとかた》ならず騒ぐと見え、引切《ひっきり》なしに空《から》の煙草を嚊《か》ぐ真似し時々は「何《ど》うしても見出せねば、爾《そう》だ何うしても見出して呉れる」と打呟く声を洩す、余は目科に向いて馬車の隅にす
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