ぶるに一方は瘠《や》せて背高く一方は肥《こえ》て背低し斯《かく》も似寄たる所少き二人の医官が同様の見立を為すは殆ど望み難《がた》き所なれば猶お彼等の言葉を聞かぬうちより既《すで》に失望し居たる所、彼等は頓《やが》て検査し終り、今まで居残れる警察長に向い不思議にも同一の報告を為《な》したり、同一の報告とは他ならず梅五郎老人は唯一突にて即死せし者なれば従ッて血の文字は老人の書し者に非ずと云うに在り。
 余は意外にも二人の医官が二人ながら余の意見と同一の報告を為せしを見、ほッと息して目科に向えば目科は益々怪しみて決し兼たる如く「フム老人が書たで無いとすれば誰が書たのだろう、藻西太郎か、藻西太郎が自分で自分の名を書附て行くと云う事は決して無い、無い/\何うしても無い、自分で自分の名を書くとは余り馬鹿げ過て居る」
 余は此言葉に何の批評をも加えねど、己が役目の漸《ようや》く終り、やッと晩餐に有附く可き時の来りしを歓びながら出《いで》て行く彼の警察長は目科の言葉を小耳に挟み彼れをからかうも一興と思いし如く「当人が既に殺しましたと白状した後で他人の君が六《むず》かしく道理を附け独り六かしがッて居るの
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