です、藻西太郎より外の者の云う事は決して聴きません」是《こゝ》だけ聞きて目科は「夫で好し最《も》う聞く事は無いからお前下るが好い」と云い老女が外の戸まで立去るを看送《みおく》り済《すま》し更に余が方《かた》に打向いて「最《も》う何《ど》うしても藻西太郎の仕業《しわざ》と認める外は無い」と嘆息《たんそく》せり。
目科が猶お老女を尋問し居たるうちに、先刻判事が向いに遣《やり》しと云いたる医官二名出張し来りて此時までも共々《とも/″\》に手を取りて老人の死骸を検《あらた》め居たれば余は一方に気の揉める中《うち》にも又一方に医官が検査の結果|如何《いかゞ》と殆《ほとん》ど心配の思いに堪えず、凡《およ》そ医師|二人《ににん》以上立会うときは十の場合が七八《なゝやつ》まで銘々見込を異にする者なれば若《も》し此場合に於ても二人其見る所同じからず、縦《よ》し一方が余の見立通り老人は唯一突にて痛《いたみ》を感ずる間も無きうちに事切れたりと見定むるとも其一方が然らずと云わば何とせん、青《あお》書生の余が言葉は斯《かゝ》る医官の証言に向いては少しの重みも有る可きに非ず、斯《かく》思いて余は二人の医官を見較
前へ
次へ
全109ページ中45ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
黒岩 涙香 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング