に軽々しく聞過し難き所ならん、余は殆ど堪え兼て傍《かたわら》より問を発し「若《も》し夫だけの事ならばお前が確に藻西太郎と認めたとは云われぬじゃ無いか」老女は最《いと》怪《あやし》げに余を頭の頂辺《てっぺん》より足の先まで隈《くま》なく見終り「なに貴方、仮令《たとい》当人の顔は見ずとも連て居る犬を確に見ましたもの、犬は藻西に連られて来る度《たび》に私しが可愛がッて遣《や》りますから昨夜も私しの室へ来たのです、だから私しが余物《あまりもの》を遣《やろ》うとして居ると丁度《ちょうど》其時藻西が階段の所から口笛で呼ましたから犬は泡食《あわくっ》て三階へ馳上《はせあが》ッて仕舞ました」此返事を目科は何と聞きたるにや余は彼れの顔色を読まんとするに、彼れ例の空箱にて之を避《よ》け「して藻西の犬とは何《ど》の様な犬だ」と老女に問う女「はい前額《ひたい》に少し白い毛が有るばかりで其外は真黒な番犬《ばんいぬ》ですよ、名前はプラトと云ましてね、大層気むずかしい犬なんです、知ぬ人には誰にでも※[#「口+曹」、第3水準1−15−16]《うな》りますが唯《たゞ》私しには時々食う者を貰う為め少しばかり穏《おだや》か
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