出せしかば目科は之を慰めて「いやお前が爾《そう》まで悲むは尤もだが、最《も》う時が無い事で有るし先ず悲みを堪《こら》えて――女「はい堪えます、堪えます目「私《わし》の問う事に返事を仕て、さゝ、夫から何うした、其老人の死骸を見て其時お前は何と思ッた女「何と思わ無くとも分ッて居ます、甥の畜生が伯父の死《しぬ》るのを待兼て早く其身代を自分の物にする気になり殺したに極て居ます、私しは皆に爾《そう》云て遣《やり》ました目「併《しか》し、何故其甥が殺したに極て居る人を人殺しなどゝ云うは実に容易の事で無く其人を首切台へ推上《おしのぼ》すも同じ事だ、少し位は疑ッても容易に口にまで出して言触す事の出来る者で無い、夫くらいの事はお前も知て居るだろう女「だッて貴方《あなた》、甥で無くて誰が殺しましょう、藻西太郎は昨夜老人に逢《あい》に来て、帰て行たのは大方《おおかた》夜の十二時でした、毎《いつ》も来れば這入がけと帰掛《かえりがけ》とに大抵私しへ声を掛る人ですのに昨夜に限り来た時にも帰る時にも私しへ一言の挨拶をせぬから私しは変だと思て居ましたよ、何しろ昨夜其甥が帰てから今朝私しが死骸を見出した時まで誰も老人の
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