、爾々《そう/\》夫ばかりでは有りませんよ昨年も老人とお倉さんと喧嘩をした事が有ます、お倉さんは亭主《やど》に或《あ》る飾屋《かざりみせ》の株を買せるからと云い老人に大変な無心を言て来たのです、すると老人は一も二も無く跳附《はねつけ》て、己《おれ》が死んだ後では己の金を藻西太郎が何《ど》の様に仕ようと勝手だけれど兎《と》角も己の稼ぎ溜た金だから生て居る間は己の勝手にせねば成らぬ、一文でも人に貸して使わせる事は出来ぬなんぞと言ました」読者よ余の考えにては此点こそ最も大切の所なれば目科が充分に問詰るならんと思いしに彼れ意外にも達《たっ》て問返さん様子なく余が目配《めくばせ》するも知らぬ顔にて更に次の問題に移り「したが老人の殺されて居る所は何《ど》うして見出した女「何うしてとは、夫は私しが見出したのですよ、先《ま》あ何うでしょうお聞下さい私しは毎《いつ》もの通り十二時を合図に膳を持て老人の室まで来、兼《かね》て入口の合鍵を渡されて居る者ですから何気なく戸を開て、内へ這入《はいっ》て見ますると、可哀相に、此有様です」と言来《いいきた》りて老女は真実|憫《あわ》れに堪えぬ如く声を啜《すゝ》りて泣
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