》へは沢山《たくさん》尋ねて来る人が有たのか女「はい有ッても極極《ごく/\》僅《わず》かです其うちで屡々《しば/\》来るのが甥の藻西太郎さんで、土曜日の度には必ず老人に呼ばれてラシウル料理店へ中食に行きました目「甥と老人との間柄は女「此上も無く好い仲でした目「是までに言争いでも仕た事は女「決して有りません、尤もお倉《くら》さんの事に就ては両方の言う事が折合ませんですけれど目「お倉さんとは誰の事だ女「藻西太郎さんの細君《おかみさん》です、実に奇麗な女ですよ。あの様なのが先《ま》ア立派な女と云うのでしょう、夫《それ》に外に悪い癖は有りませんけれど其お倉さんも大変な衣服蕩楽《なりどうらく》で藻西太郎さんの身代に釣あわぬほど立派な身姿《みなり》をして居ますから綺倆《きりょう》が一層引立ちます、ですから全体云えば老人が大層誉め無ければ成らぬ筈ですのに何《ど》う云う者か老人は其お倉さんが大嫌いで藻西太郎さんに向ッては手前は女房を愛し過る今に見ろ女房の鼻の先で追使われる様になるからとか、お倉は手前の様な亭主に満足する女じゃ無い、今に見ろ何か間違いを仕出来《しでか》すからとか其様な事ばかり言て居ました
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