ち》には私《わたく》しが気遣うて待て居ますから」と叫びたり、大事を取れとは何事にや、委細《いさい》の心は分らねど扨《さて》は、扨は、細君が彼れの身持を咎《とが》めぬのみかは何も彼も承知の上で却て彼れに腹を合せ、彼れが如き異様なる振舞を為《な》さしむるにや、斯く思いて余は殆《ほとん》ど震い上り世には恐ろしき夫婦もある哉《かな》と嘆《たん》じたれど、此後の事は是よりも猶《な》お酷《ひど》かりき。
余は修学に身を委ねながらも、夜に入《い》りては「レローイ」珈琲館《かひいかん》と云えるに行き球《たま》や歌牌《かるた》の勝負を楽むが捨難《すてがた》き蕩楽《どうらく》なりしが、一夜《あるよ》夫等《それら》の楽み終りて帰り来り、猶《な》お球突《たまつき》の戯《たわむ》れを想いながら眠りに就《つき》しに、夢に球と球と相触れて戞々《かつ/\》と響く音に耳を襲われ、驚き覚《さ》めて頭《かしら》を※[#「てへん+擧」、第4水準2−13−59]《あぐ》れば其響は球の音にあらで外より余が室の戸を急がわしく打叩くにぞありける、時ならぬ真夜中に人の眠りを妨るは何《いず》れの没情漢《ぼつじょうかん》ぞと打呟《うちつ
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