こ》めたれば余が不審は是よりして却《かえっ》て、益々|募《つの》り、果《はて》は作法をも打忘れて熱心に目科の行《おこな》いを見張るに至れり。
見張り初《はじ》めてより幾程《いくほど》も無く余は目科の振舞に最《い》と怪しく且《かつ》恐ろしげなる事あるを見て何《ど》うせ碌《ろく》な人には非《あら》ずと思いたり、其事は他《ほか》ならず、或日目科は当時の流行を穿《うが》ちたる最《いと》立派なる服を被《き》かざり胸には「レジョン、ドノル」の勲章を燦《きら》めかせて外《ほか》より帰ると見たるに其《その》僅《わず》か数日後に彼れは最下等の職人が纏《まと》う如《ごと》き穢《きたな》らしき仕事衣《しごとぎ》に破れたる帽子を戴《いたゞ》きて家を出《いで》たり、其時の彼れが顔附は何処《どこ》とも無く悪人の相《そう》を帯び一目見るさえ怖《こわ》らしき程なりき、是さえあるに或午後は又彼れが出行《いでゆ》かんとするとき其細君が閾《しきい》の許《もと》まで送り出で、余所目《よそめ》にも羨《うらや》まるゝほど親《したし》げに彼れが首に手を巻きて別れのキスを移しながら「貴方《あなた》、大事をお取《とり》なさい、内《う
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