本統にと繰返し/\呟きます検査官は之を聞て再び彼れの傍に近附て何うしたか自分で知って居るだろう、愈々罪に服するかと問ますと彼れは爾《そう》ですと云わぬばかりに頷首《うなず》きながら何うか独りで置て下さいと云うのです、夫でも若《も》しや独りで置いて自殺でも企てる様な事が有ては成らぬと思い吾々は竊《ひそか》に見張を就《つけ》て牢から退き、検査官と同僚巡査一人とは本署に残り私しが此通り顛末の報告に参りました」と世に珍しき長談議も茲《こゝ》に漸《ようや》く終りを告げたり。
 聞終りて警察長は「是で最う何も彼も明々白々だ」と呟き予審判事も同じ思いと見え「左様《さよう》、明々白々です、外に何《ど》の様な事情が有《あろ》うとも藻西太郎が此事件の罪人と云う事は争われぬ」と云う、余は実に驚きたれど猶《な》お合点の行かぬ所あり横鎗を入んため将《まさ》に唇頭《くちびる》を動さんとするに目科も余と同じ想いの如く余よりも先に口を開き「是《これ》を明々白々とすれば藻西は伯父を殺した後で自分の名を書附て行た者と思わねばならぬ、其様な事は何うも無い筈《はず》だが、警「無さ相《そう》でも好《よ》いじゃ無いか当人が白状し
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