まで歩む事も出来ぬのです、え何と恐ろしい者じゃ有ませんか、我が悪事が早や露見したかと失望したので足が立なく成たのです、先々《まず/\》是で厄介を払たと思た所ろ女房の外に猶《ま》だ一つ厄介者が有たのですよ、夫を何だと思います、彼れの飼《かっ》て居る黒い犬です、犬の畜生女房より猶だ手に合ぬ奴で、吾々が藻西太郎を引立ようとすると※[#「けものへん+言」、第4水準2−80−36]々《わん/\》と吠て吾々に食《くら》い附《つこ》うとするのみか追ても追ても仲々聴ません、実に気の強い犬ですよ、夫でも先《ま》ア味方は三人でしょう敵は纔《わずか》に一匹の犬だから漸《ようや》くに追退《おいのけ》て藻西を馬車へ引載ると今度は犬も調子を変え、一緒に馬車へ乗うとするのです、夫も到頭|追払《おっぱら》いやッとの事で引上る運びに達しましたが、其引上る道々も検査官は藻西太郎を慰めようとしますけれど彼れ首《こうべ》を垂れて深く考え込む様子で一言も返事しません、夫から警察本署へ着た頃は少し心も落着た様子でしたが、頓《やが》て牢の中へ入《いれ》ますと、彼れ唯一人淋しい一室へ閉籠られただけ又首を垂れあゝ何《ど》うしたんだなア
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