ア目科君か、折角|呼《よび》に遣《やっ》たけれど君を迎えるほどの事件では無《なか》ッたよ目「とは又|何《ど》う云う訳で「いや君の智慧を借るまでも無く罪人が分ッて、仕舞ッた、実は最《も》う逮捕状を発したから今頃は捕縛《ほばく》された時分だ」罪人が解りたらば先《ま》ずほッと安心すべきところなるに目科は爾《さ》は無くて痛く失望の色を現わし※[#「研のつくり」、第3水準1−84−17]《そ》を体好《ていよ》く紛らさんため例の嚊煙草の箱を取出し鼻の先に二三度当て「おやおや罪人が分ッたのか」と云う、今度は予審判事が之に答えんとする如く「分ッたにも、最《も》う明白に分ッたよ、罪人は此老人が死切れた物と思い安心して逃て仕舞ッたが実は是《こ》れが本統《ほんとう》に天帝《てんてい》の見張て居ると云う者だろうよ、老人は未《ま》だ死切《しにきら》ずに居て、必死の思いで頭を上げ、傷口から出る血に指を浸して床へ罪人の名を書附て置《おい》て死《しん》だ。先《ま》ア見たまえそれ血の文字が歴々《あり/\》と残ッて居る」此《この》傷《いた》ましき語を聞きて余は直ちに床中《ゆかじゅう》を見廻すに成《な》るほど死骸の頭の辺に
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