ちに牢屋へ入られしが、牢の空気は全く彼れの強情を挫《くじ》きし者と見え彼れ何も彼も白状したり其大要を掻摘《かいつま》めば彼れは久しく藻西太郎と共々に飾物の職人を勤めしだけ太郎の伯父なる梅五郎老人とも何時《いつ》頃よりか懇意に成りたり、此度老人を殺したる目的は全く藻西太郎を憎むの念より出しものにて彼れに人殺しの疑いを被《き》せ其筋の手を借りて亡き者とし其後にて倉子と添遂《そいとげ》ると云う黙算なれば、職人の衣類を捨て故々《わざ/\》藻西の如き商人の風に打扮《いでた》ちプラトを連れて老人の許へ問行《といゆ》きしなり、是だけにて充分藻西に疑いの掛るならんと思いたれど猶お念の上にも念を入れ、老人の死骸の手を取り、傷より出る血に染めて、宛《あたか》も老人自らが書きし如く床に血の文字を書附て立去りしとなり、是だけ語りて生田は最《いと》誇顔《ほこりがお》に「仲々|能《うま》く計《たくん》だと思いましたが老人を殺せば倉子の亭主は疑いを受けて亡き者に成り其上老人の財産は倉子に転《ころが》り込《こん》で倉子は私しの妻に成ると云う趣向ですから石|一個《ひとつ》で鳥二羽を殺す様な者でした、夫が全く外れて仕舞い
前へ
次へ
全109ページ中104ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
黒岩 涙香 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング