だな、夫だけ聞けば沢山だ」と云い目科は更に余に向いて「君、あの卓子《ていぶる》の中《うち》などを検《あらた》めたまえ必ず藻西倉子の写真や艶書《ふみ》などが入《いっ》て居るから」と云う、余は其《その》命《めい》に従わんとするに生田は痛く憤《いきどお》り拳《こぶし》を握りて目科に打て掛らんとせしかども、二人に一人の到底及ばぬを見て取りし如く唯《た》だ悔しげなる溜息を洩すのみ、果して卓子《ていぶる》其他の抽斗《ひきだし》よりは目科の推量せし通り倉子よりの艶書《ふみ》も出で且《かつ》其写真も出たる上、猶お争われぬ大《だい》の証拠と云う可きは血膏《ちあぶら》の痕を留めし最《いと》鋭き両刃《もろは》の短剣なり、殊に其形はコロップの裏の創にシックリ合えり、生田の罪は最早《もは》や秋毫《しゅうごう》の疑い無し。
 是より半時間と経ぬうちに生田は目科と余の間にはさまりて馬車に乗せられ警察本署へと引立られしが余は其道々も余り捕縛の容易なりしに呆《あき》れ「あゝ案じるより産むが易い」と呟けば目科は「先《ま》ア探偵に成て見たまえ斯う易々と捕縛されるのは余り無いから」と答えたり。
 斯《かく》て生田は直《たゞ》
前へ 次へ
全109ページ中103ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
黒岩 涙香 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング