《だいかつ》一声に「法律の名に於て其方《そのほう》を捕縛する」と叱り附る、生田は初て驚きたるも猶お度胸を失わず「御笑談《ごじょうだん》を為《な》さるな私しが何をしました」目科は肩を聳《そびやか》して「これ/\今と成て仮忘《とぼ》けても了《いけ》ないよ、其方が一昨夜梅五郎老人を殺し其家を出て行く所を確かに認めた者も有り、殊に其方が短剣の刃の欠けぬ様、其剣先に差して行て帰る時に忘れて来たコロップも持て居る、其証拠を見せて遣《やろ》うか」鋭き言葉に敵し得ず全く逃るゝ道なきに失望せし如く、蹌踉《よろめ》きて卓子《ていぶる》に仆《たお》れ掛り、唯口の中にて「私しでは有りません、私しでは有りません」と呟くのみ。
目「其様な事は判事の前へ出た上で云うが好い、云た所で迚《とて》も採用はせられ舞《ま》い、既に其方の共謀者藻西倉子が何も彼も白状して仕舞たから」此言葉に生田は電気にでも打れし如く跳《はね》返り「え、え、あの女が、其様な事は有りません、少しもあの女の知ッた事で無いのですから」驚きの余り辷《すべ》らせたる此言葉は充分の白状に同じければ目「して見ると其方が一人で計《たく》んで一人で行ッたと云うの
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