は》せて入る、余は薄々と其目的を察したれば同じく酒店に馳て入るに目科は給仕に向い「あの青い口を仕て有る銘酒を持て来い」と云う、給仕が心得て持来るを目科は受取るが否《いな》直《たゞ》ちに其口なるコロップを抜き其封蝋の青き所を余に示してにッこと笑み、瓶は酒の入たる儘にて幾法《いくふらん》の銀貨と共に卓子《ていぶる》の上に残し置き、コロップを衣嚢《かくし》に入れて再び二十三番館に帰り、今度は案内を請わずして四階の上に飛上る、成るほど生田の室は「飾職《かざりしょく》生田」と記《しる》したる表札にて明かなれば、直ちに入口の戸を叩くに内より「さアお這入《はい》り成《な》さい」との声聞ゆ、鍵は錠の穴に差込みしまゝなれば二人は遠慮なく戸を開きて内に入《い》る、内には窓の下なる卓子《ていぶる》に打向い、今現に金の指環に真珠を嵌《は》むる細工に掛れる、年三十二三の優《や》さ男、成るほど女にも好かれ相《そう》なる顔恰好は是れが則ち曲者生田なるべし、生田は二人の入来るを見て別に驚く様子も無く立来りて丁寧に「何の御用でお出に成りました」と問う、目科は斯《かゝ》る事に慣れし丈《だ》け、突然進みて生田の腕を捕え大喝
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