フ君は、実に目ざましいほどの、君自身にも僕にも少々驚くほどの、そして本当の君を見ることのできなかった諸友人には何のことやら訳もわからぬほどの、力と速度とで、まっしぐらに、しかし眼を大きく開いて、君の出来心に進んで行った。
 先月の最終日、君が御宿に行った翌日、二度目の君の手紙に言う。
「ひどい嵐です。ちょっとも外には出られません。本当にさびしい日です。けれど今日、さっきあなたに手紙を書いた後、大変幸福に暮しました。何故かあててごらんなさい。言いましょうか。それはね、なお一層深く愛の力を感じたからです。本当に、こないだ、あなたに言いましたね。あなたの御本だけは持って出ましたって。今日は朝から夢中になって読みました。そしてこれがちょうど三,四回目ぐらいです。それでいて、なんだか初めて読んだらしい気がします。
「あなたには、前から幾度も書物を頂くたびに、ぜひ何か書きますってお約束ばかりして何にも書きませんでしたわね。私は書きたくってたまらない癖にどうも不安で書けませんでしたの。それは、本当にあなたのお書きになったものを普通に読むという輪廓だけしか読んでいなかったのだということが、今日はじめて
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