「的はずれのウガチに過ぎなくはなるが、一時は君の言葉にだまされて、喜んでその吹聴をして歩いたという話だ。
僕は、男としての器量を、まったく下げてしまった訳だ。ひとかどの異端評論家(『国民新聞』記者命名)、サニズムの主唱者(『時事新報』記者命名)、社会主義研究者(『万朝報』記者命名)と人も許し自分も許していた大の男が、新しい女なぞというアバズレの小娘に、見事背負投げを食わされた形になったのだ。
野枝さん。
しかし、さすがに僕ひとりだけは、本当の君を知っていた。君を大好きな僕に、僕を大好きの君の心がわかるのに、何の不思議はない。堪ろうと堪るまいと、それは僕等の知ったことじゃないとも言ったが、あんまりおのろけを言うのも、まだ少々気はずかしいような気もするので、このことはこの一句だけで止して置こう。君が、そんなふうでカラ威張りに威張っている間に、ロクに飯も食べずに、だんだん痩せ衰えて行った事実は、もっともこれは君ばかりの事実ではなく僕にもそうではあったが、いずれ君の筆でどこかに発表されることと思う。
二
野枝さん。
けれども、かのいわゆる本能的感情を打破った以来
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