@野枝さん。
 これでようやく本論にはいりかけて来た。けれども、ここまで書いて来て、この手紙を「一情婦に与えて女房に対する亭主の心情を語る文」とのみするよりも、さらに「女房に与えて彼女に対する一情婦の心情を語る文」というような意味がはいるのも、しごく妙だろうと思われるので、もう少し君の手紙を拝借して行きたい。お蔭様で、写字をして、だいぶ原稿が儲かる訳になるのだがね。
 その後しばらくして、君の手紙の中に、再び保子のことが書かれてあった。たぶん新聞に出た彼女の談話から、そんな気持を誘い出されたものと思う。
「保子さんにはもう少し理解ができるようにお話しになれませんか。私は何を言われてもかまいませんが、もう少しあなたということをお考えになれないでしょうか。私には、何だかもっとあなたがよくお話しになれば、お分りならない方ではないような気がしますけれど。あなたは保子さんによくお話しをなさることを面倒がっていらっしゃるのではありませんか。もしそうなら、私は、できるだけもっと丁寧にあなたがお話しになるようにお願いします。どうでもいいというような態度はお止しになった方がよくはありませんか。勿論私はま
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