先生は真黒な顔の中に白い歯を見せながら切りだした。中学校ができるといううわさは僕等もうすうす聞いていた。しかし、それがまだはっきりした話でなかったようなのと、高等二年を終えればすぐはいれるなぞとは知らなかったのとで、僕等は大してそれを問題にしていなかった。三人はどう返事をしていいのか分らんので、しばらくの間黙ってただ顔を見あわしていた。
「高等二年を終えればすぐはいれるんだがね、ほかのものはとにかく、君等三人だけは僕が保証するから是非はいって見ないか。家へ帰って先生がこう言ったからと言って、お父さんやお母さんと相談してごらん。」
僕等は急にうれしくなった。そして、もう中学校へはいったような気になって、「しかしこのことはほかのものには話ししないようにね」という先生の注意もうわの空で、大喜びで家へ帰った。
先生は、僕等には初めての師範出の若い先生だった。それまでの先生は、尋常四年の時の島先生を除けば、みないいかげん年とった先生ばかりだった。そして先生は、僕等とほんとうに友達になって遊んでくれた、初めての先生だった。「僕」なぞと言ったのも先生だけだった。
先生は来るとすぐ高等一年
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