の僕等の組を受持った。先生の真黒な顔は最初僕等にあまり受けがよくなかった。ちょっとこわそうに見えたのだ。が、この先入見は、唱歌の時間にすぐ毀されてしまった。今までは女の先生ばかりがやっていた唱歌までも先生が受持ったのだ。それだけですらすでに先生の上に、ある人望と好奇心とが加わった。そしてその最初の時間は実に奇観なものだった。
 兵隊のようにからだのいい、腕を前につき出して、真黒な顔の先生が、オルガンの前に腰かけた。僕等はそのオルガンからどんな音が出るだろうと待ち構えていた。オルガンの音は優しい顔の女の先生のと別に変りはなかった。が、そのやはり真黒な、毛もしゃくしゃの、大きな指が、少しもぎこちなくはなく器用にそして活発にキイの上を走るのが、まずみんなを愉快がらした。
 やがて先生が歌い出した。真黒な顔一ぱいに広がった大きな口から、教室じゅうに響き渡る、太いバスが出て来た。おちょぼ口をして聞えるか聞えないような声を出している、女の先生の声ばかり聞いていた僕等は、それですっかり先生に参ってしまった。そしてみんなは非常に愉快になって、できるだけ大きな口を開けて、できるだけ大きな声で歌った。
 
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