自叙伝
大杉栄
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《》:ルビ
(例)心《しん》は
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自叙伝(一)
一
赤旗事件でやられて、東京監獄から千葉監獄へ連れて行かれた、二日目か三日目かの朝だった。はじめての運動に、一緒に行った仲間の人々が、中庭へ引き出された。半星形に立ちならんだ建物と建物との間の、かなり広いあき地に石炭殻を一面にしきつめた、草一本生えていない殺風景な庭だ。
受持の看守部長が名簿をひろげて、一列にならんでいるみんなの顔とその名簿とを、しばらくの間見くらべていた。が、やがて急に眉をしかめて、幾度も幾度も僕の顔と名簿とを引きくらべながら、何か考えているようだった。
「お前は大杉東というのの何かかね。」
部長はちょっと顎をしゃくって、少し鼻にかかった東北弁で尋ねた。
名簿には僕の名の右肩に、「東長男」とあることは知れきっている。それをわざわざこう言って聞くのは、いずれ父を知っている男に違いない。その三十幾つかの年恰好や、監獄の役人としては珍らしい快活さや、ことにそ
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