の僕に親しみのある言葉の調子で、僕はすぐにどこかの連隊で下士官でもやっていたのかなと思った。
「先生、親爺の名と僕の前科何犯とをくらべて見て、驚いてるんだな。」
僕はそう思いながら、返事のかわりにただにやにや笑っていた。それに、こんなところで父を知っている人間に会うのは、少々きまりも悪かったのだ。
「東という人を知らんのかね。あの軍人の大杉東だ。」
部長は不審そうに重ねてまた尋ねた。
「知らないどこの話じゃない。それや大杉君の親父さんですよ。」
それでもまだ僕がただにやにやして黙っているので、とうとう堺君が横あいから答えてくれた。
「ふうん、やっぱりそうか……あの人が大隊長で、僕はその部下にいたことがあるんだが……あの精神家の息子かね……」
部長はちょっとの間感慨無量といったような風で、ひとり言のように言っていたが、やがて自分に帰ったようになって、
「その東という人は第二師団で有名な精神家だったんだ。その人の息子がどうしてまたこんなところへはいるようになったんだか……」
と繰りかえすように附け加えた。
この精神家というのは、軍隊での一種の通り言葉で、忠君とか愛国とかのいわゆ
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