ゃあるまいかと。
僕は父と母とにその話をした。そして三人できっとその時のことだろうときめてしまった。
父と母とはすぐ見舞いに行った。が、向うでは、それをひどく恐縮して、何でもよいことにしてしまった。
その後その子がどうなったかよく覚えていないが、目つきがちょっと藪にらみのようになって、いつも何にも言わずに黙っているのを見たようにも思う。
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自叙伝(三)
一
高等小学校の二年を終る少し前のことだった。ある日先生から、大沢と大久保と僕と三人に、その晩先生の下宿を訪ねるようにと言われた。
「何の用だろう。」
三人は心配しだした。先生に自分の家へ来いなぞと言われたのは初めてだった。が、いくら三人が首をあつめて見ても、それが何の用だかは、どうしても見当がつかなかった。それだけ三人はなお心配した。
三人はどこかで待合せて、びくびくしながら、地蔵堂町の先生の下宿へ一緒に行った。
先生はにこにこしていた。そして自分でお茶を出してくれて、かしこまっている僕等に無理無理にあぐらをかかした。
「こんどこの土地に中学校ができるんだがね、どうだ、みんなはいって見ないか。」
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