は棟が違っていて、大きな二つの室の奥の方が、その夜は宿の親戚の女どもの寝室になっていた。彼女はその手前の室の中にはいって、紫檀の茶ぶ台の向うに立ちどまった。
「許して下さい。」
 彼女は恐怖で慄えながらまた叫んだ。
 が、僕はその茶ぶ台の上を踏み越えて彼女を捕まえようとした。彼女はまた走り出した。その奥に寝ていた女どもは目をさまして、互いにかじりついて、僕等の方を見つめながら慄えていた。
 僕は呼吸困難で咽喉がひいひい鳴るのを覚えながら、なお彼女を追っかけて行った。彼女はさっきの梯子段を降りて、廊下をもとの方へ走って、もとの二階へは昇らずに、そこから左の方へ便所の前に折れた。そしてその折れた拍子に彼女は倒れた。僕も彼女の上に重なって倒れた。
 僕はそれから幾分たったか知らない。ふと気がついて見ると、血みどろになって一人でそこに倒れていた。呼吸はもう困難どころではなくほとんど窮迫していた。
「これはいけない。」
 と僕は思いながら、ようやく壁につかまって起ちあがって、玄関の方へよろめいて行った。玄関のそばには女中部屋があった。僕は女中を起して医者を呼びにやろうと思ったのだ。が、その女中部
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