大して興味がないようだった。が、彼女には、この「一人で」かどうかがよほど気になるらしかった。
「勿論一人だ。みんなから逃げて、たった一人になって仕事をするんだ。」
 彼女はこの「たった一人に」ということにしきりに賛成した。そして、ゆっくりと、うんと仕事をして来るようにとしきりに勧めた。
 当時僕は、女房の保子を四谷の家に一人置いて、最初は番町のある下宿屋の二階に、そしてそこを下宿料の不払で逐い出されてからは、本郷菊坂の菊富士ホテルというやはり下宿屋に、伊藤と二人でいた。二人とも、二人一緒にいることは、決して本意ではなかったのだ。二人とも、同じように家を棄てて出て、一人っきりになることを渇望していた。だが僕は、女房とまだ縁が切れずにいる上に、神近や伊藤との関係があった。伊藤は、家とともにその亭主とも縁は切れているが、新たに僕との関係があった。そして、こうした厄介な関係の上からのみでも、二人は一緒にいるうるさい生活に堪えられなかったのだ。
 伊藤は最初からそのつもりで、家を出るとすぐ、赤ん坊を抱えて下総の御宿へ行った。そこは、かつて彼女の友人の平塚らいちょうが行っていて、彼女には話しなじみ
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