のところだったのだ。彼女は当分そこで、ほんとうの一人きりになって、勉強する覚悟だった。
僕は伊藤のこの覚悟さえ続いたら、すなわちいろんな事情がそれを続けることを許しさえしたら、僕等の三角関係というか四角関係というか、とにかくあの複雑な関係がもっと永続して、そしてあんなみじめな醜い結果には終らなかったろうと、今でもまだ思っている。が、その覚悟を毀したのは何よりもまず経済問題だった。そして、どんなことがどこへどう祟って[#「祟って」は底本では「崇って」と誤記]行くか分らない一例証として、ちょいとその話をして見よう。
伊藤はその以前と同じように、やはり原稿生活をして行くつもりだった。そして第一にまず、その家出のことを書いて、それを当時彼女が続きものを書いていた大阪毎日に売る予定だった。彼女はそれを大毎の菊池幽芳氏に交渉した。幽芳氏は彼女のそのものにかなり大きな期待を持って、激励と同時に承諾の返事を寄越した。それで、伊藤は落ちついて、御宿のある宿屋に腰を据えることになった。
ところが、その原稿が、幽芳氏の非常な称讃の辞がついて、送り返されて来たのだ。その時、ちょうど僕は御宿へ遊びに行って
前へ
次へ
全234ページ中200ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
大杉 栄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング