アをかしい顔をしてゐるやらう。日本人は奇妙な踊をするもんやと思うて見てゐるのやらうな。」
 子はただ「ふむ、ふむ」と答へておいた。が、母が正面に向き返るまで自分からさきに舞台の方を見ることが出来なかつた。
「あれきつと自分の国へ帰つてから、日本で面白いものを見て来たつて云ふのやな。」
 さう云つてから母は漸く踊子の方を向いた。子はまだ故意に後を向いてゐた。が、見るものが無かつたので、その時間を利用して群る人々の顔の中から目立つた綺麗な顔を模索した。
 一度舞台から消えた踊子の群は再び手拭を持つて、ゆるゆると踊り乍ら両側の花道から現はれた。
 すると母は子の方へ顔を寄せて又囁いた。
「あの子お見、可愛らしいことなア、人形さんのやうや。」
 子は母が胸の上で指差してゐる踊子に見当をつけてよく見ると、最後から二番目のまだ小さい杓子顔の雛妓《おしやく》であつた。子はその顔から何処か良い所を捜さうとつとめてみた。そして時々眠さうな眼をすることが可愛いと強ひて思つた。
「後から二番目?」
「そやそや、可愛らしいやろ」
「うむ。」と子は言つて見付けておいた美しいいま一人の踊子を見ようとしたが、母の看
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