のでまた後へ引き返した。千枝子は常常から京大阪ならどこでも知っている顔つきの定雄の失敗に、
「だから、豪そうな顔はするもんじゃありませんわ」と云ってやりこめた。
雪解けでびしょびしょの道をようやくもとへ戻ると、一組の他の人達と一緒になったのでその後から定雄たちもついていった。細い山道は陽のあった所を解け崩《くず》しながらも、山陰は残雪で踏む度に草履が鳴った。千枝子はときどき立ち停って、まだ雪を冠《かぶ》っている丹波《たんば》から摂津へかけて延びている山山の峰を見渡しながら、
「おお綺麗《きれい》だ綺麗だ」と感歎しつづけた。
七八町も歩くと、また針金に吊《つ》るされた乗物で谷を渡らねばならなかったが、これはケーブルよりも一層乗り工合が飛行機に似ていた。
「この方が飛行機に似ているよ」
「これなら気持ちがいいけど、ケーブルは何んだかいやだわ」
そう云う千枝子に抱きかかえられている清は、
「ほらほら、また来た」と突然叫んで前方を指差した。
見ると向うから新しく仕立てて来た車が、こちらを向って浮いて来た。皆がしばらく口をぼんやり開《あ》けてその車の方を面白そうに眺めていた。するとその途
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