比叡《ひえい》
横光利一

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)度度《たびたび》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)一同|揃《そろ》って
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 結婚してから八年にもなるのに、京都へ行くというのは定雄夫妻にとって毎年の希望であった。今までにも二人は度度《たびたび》行きたかったのであるが、夫妻の仕事が喰《く》い違ったり、子供に手数がかかったりして、一家引きつれての関西行の機会はなかなか来なかった。それが京都の義兄から今年こそは父の十三回忌をやりたいから是非来るようにと云って来たので、他のことは後へ押しやっていよいよ三月下旬に京へ立った。定雄は妻の千枝子が東京以西は初めてなので、定雄の幼年期を過した土地を見せておくのも良かろうと思い、一つは今年小学校へ初めて上る長男の清に、父の初めて上った小学校を見せてやりたくもあったので、一人でときどき来ている京阪の土地にもかかわらず、この度は案内役のこととて気骨も折れた。
 定雄夫妻は宿を定雄の姉の家にした。翌日は姉の子供の娘一人と定雄の子供の長男次男と、それに定雄夫妻に姉、総勢六人で父母の骨を納
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