めてある大谷《おおたに》の納骨堂へ参った。すでに父母は死んでいるとはいえ、定雄は子供を見せに堂へ行くのは初めてのこととて反《そ》りを打った石橋を渡る襟首《えりくび》に吹きつける風も穏やかに感ぜられた。彼はまだ二つによりならぬ次男の方をかかえて、もう盛りをすぎた紅梅を仰ぎながら石段を登った。清より一年上の姉の娘の敏子と清とは、もう高い石段を真っ先に馳《か》け登ってしまって見えなくなった。定雄は石段を登る苦しさに身体がよほど弱って来ているのを感じた。彼はその途中で、今年次ぎ次ぎに死んでいった沢山の自分の友人のことを思いながら、ふと、自分が死んでも子供たちはこうして来るであろうと思ったり、そのときは自分はどんな思いで堂の中から覗《のぞ》くものであろうかと思ったり、世の常の堂へ参る善男善女の胸に浮ぶ考えとどこも違わぬ空想の浮ぶのに、しばらくは閉口しながら子供らの後を追っていった。しかし定雄は千枝子や姉を見ると、彼女らは一向父母の骨の前に出る感慨もなさそうに、あたりの風景を賞しながら楽しげに話しているのを見ると、それではこの中で一番に古風なのは自分であろうかと思ったりした。そのくせ京都へは幾度も
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