として、彼女の愛翫《あいがん》し続けて来た黄金の鐶であった。彼女は牛車から降りると、一人の童男に共《とも》なわれて宿禰の部屋へ這入《はい》っていった。宿禰は暫《しばら》く彼女の姿を眺めていた。そうして、彼はひとり得意な微笑をもらしながら、長羅の部屋の方を指差して彼女にいった。
「行け。」
香取は命ぜられるままに長羅の部屋の杉戸の方へ歩いていった。彼女の足は戸の前まで来ると立《た》ち悚《すく》んだ。
「行け。」と再び後《うし》ろで宿禰の声がした。
彼女は杉戸に手をかけた。しかし、もし彼女が不弥の女に負けたなら、そうして、彼女が、もし奴国の女を穢《けが》したときは?
「行け。」と宿禰の声がした。
彼女の胸は激しい呼吸のために波立った。が、それと同時に彼女の唇は決意にひき締って慄《ふる》えて来た。彼女は手に力を籠《こ》めながら静《しずか》に杉戸を開いてみた。彼女の長く心に秘めていた愛人は、毛皮の上に横わって眠っていた。しかし、彼女の頭に映っていたかつての彼の男々《おお》しく美しかったあの顔は、今は拡まった窪《くぼ》みの底に眼を沈ませ、髯《ひげ》は突起した顋《おとがい》を蔽《おお》って縮
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