取の美貌と行跡について難ずるものは見あたらなかった。何《な》ぜなら、香取の父は長羅に殺された宿禰であったから。彼女は父の惨死に次いで、兄の逃亡の後は、ただ一人訶和郎の帰国するのを待っていた。彼女にとって、父を殺した長羅は、彼女の心の敵とはならなかった。彼女の敵は、彼女がひとり胸底深く秘め隠していた愛する王子長羅を奪った不弥《うみ》の女の卑弥呼《ひみこ》であった。そうして、彼女の父を殺した者も、彼女にとっては、彼女を愛する王子長羅をして彼女の父を殺さしめた不弥の女の卑弥呼であった。選ばれた日のその翌朝、香取は宮殿から送られた牛車《ぎっしゃ》に乗って登殿した。彼女は宿禰が彼女を選んだその理由と、彼女に与えられた重大な責任とを、他に選ばれた乙女たちの誰よりも深く重く感じていた。彼女は藤色の衣を纏《まと》い、首からは翡翠《ひすい》の勾玉《まがたま》をかけ垂し、その頭には瑪瑙《めのう》をつらねた玉鬘《たまかずら》をかけて、両肱《りょうひじ》には磨かれた鷹《たか》の嘴《くちばし》で造られた一対の釧《くしろ》を付けていた。そうして、彼女の右手の指に嵌《はま》っている五つの鐶《たまき》は、亡き母の片身
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