んでいる。」と一人の兵士は彼にいった。卑弥呼は振り向いて反絵の胸を指差した。
「彼らを殺した者は爾である。」
反絵は言葉を失った唖者《あしゃ》のように、ただその口を動かしながら卑弥呼の顔を見守っていた。
「来れ。」
と反耶は卑弥呼にいった。そうして、卑弥呼の手をとると、彼は彼女を酒宴の広間の方へ導いていった。
「待て、不弥の女、待て。」と反絵は叫びながら二人の後を追いかけた。
二十二
卑弥呼《ひみこ》は竹皮を編んで敷きつめた酒宴の広間へ通された。松明《たいまつ》の光に照された緑の柏《かしわ》の葉の上には、山椒《さんしょう》の汁で洗われた山蛤《やまがえる》と、山蟹《やまがに》と、生薑《しょうが》と鯉《こい》と酸漿《ほおずき》と、まだ色づかぬ※[#「けものへん+爾」、第4水準2−80−52]猴桃《しらくち》の実とが並んでいた。そうして、蓋《ふた》のとられた行器《ほかい》の中には、新鮮な杉菜《すぎな》に抱かれた鹿や猪の肉の香物《こうのもの》が高々と盛られてあった。その傍の素焼の大きな酒瓮《みわ》の中では、和稲《にぎしね》製の諸白酒《もろはくざけ》が高い香を松明の光の中
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