に漂《ただよ》わせていた。最早《もは》や酔の廻った好色の一人の宿禰は、再び座についた王の後で、侍女の乳房の重みを計りながら笑っていた。卑弥呼は盃《さかずき》をとりあげた王に、柄杓《ひしゃく》をもって酒を注ごうとすると、そこへ荒々しく馳けて来たのは反絵であった。彼は王の盃を奪いとると卑弥呼にいった。
「不弥の女、使部を殺した者は兄である。爾《なんじ》はわれに酒を与えよ。」
「待て、王は爾の兄である。盃を王に返せ。」と卑弥呼はいって、彼女は差し出している反絵の手から、柔《やわらか》にその盃を取り戻した。「王よ、我を耶馬台にとどめた者は爾である。今日より爾は爾の傍に我を置くか。」
「ああ、不弥の女。」と反耶はいって、彼女の方へ手を延ばした。
「王よ。爾は不弥の国の王女を見たか。」
「盃をわれに与えよ。」
「王よ。我は不弥の国の王女である。我の玉を爾は受けよ。」
卑弥呼は首から勾玉《まがたま》をとり脱《はず》すと、瞠若《どうじゃく》として彼女の顔を眺めている反耶の首に垂れ下げた。
「王よ。我は我の夫と奴国《なこく》の国を廻って来た。奴国の王子は不弥の国を亡した。爾は我を愛するか。我は不弥の王
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